考えてみよう 
家族をつくる選択

第2章 自分の望みを評価してみよう

第1節 子供を持つことで自分のどんな望みを満たせるのでしょうか。そのような望みを満たす他の方法はあるのでしょうか。

アブラハム・マズローの自己実現理論について聞いたことがあるのではないでしょうか。マズローの理論によると、人の欲求は5つに分けられます(図1)。

【図1】マズローの自己実現理論(日本語版翻訳者作成)
  1. 生理的欲求—生きるために欠かせない欲求。飲食、空気、睡眠に対する欲求があります。
  2. 安全欲求—安定した収入や安全な住みか、避難場所、十分な健康など、安全・安心に対する欲求です。
  3. 社会的欲求—人間関係に対する欲求で、受容、愛情、愛着、所属への欲求があります。
  4. 承認欲求—他人から認められること、業績、個人財産に対する欲求に関係します。
  5. 自己実現の欲求—個人的に成長したという感覚、能力や目的を達成した感じ、生きる意味が果たされたという感覚に関係します。

この理論によると、いったん生理的欲求と安全欲求が満たされると、個性によって程度に違いはあるものの、人は社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求を満たそうとするそうです。
社会的欲求を例に取ってみましょう。家族や友人といった基本的な関係以外には社会的欲求が低い人もいます。こういう人は、自分の仲間にとても満足しています。逆に、社会的欲求がとても高い人もいます。こういう人は、他の人といるときが最高に幸せで満足しており、家族、友達、パートナー、動物、そして様々なグループ(地域社会、宗教、活動)の一員になることで満たされる、大きな社会的欲求を持っています。

では、子供を持つかどうかという決断とこういう欲求はどう関係するのでしょう。
欲求を一つずつ正直に評価していけば、
子供を持つことが、自分の社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求を満たすのに重要なのか、
子供を持つ時に利用できる人的・物的な手立てが生活の中にあるのか、
そういう手立てはないけれど、子供を持つことが自分にとって重要な欲求だった場合、子供を持つには何を変えなければならないのか、
といったことがわかるでしょう。

一つ、ワークをやってみましょう(図2)。
一枚の白紙に3つの欄を作ります。
左の欄に、生理的欲求から自己実現欲求までの5つの欲求を書きます。
5つの欲求のそれぞれに、今ある自分の欲求を書き入れます。
例えば、生理的欲求の下に「8時間寝る」と書きます。
安全欲求の下に「使えるお金がもっと欲しい」とか「もっと安全なところに引っ越したい」などと書きます。
社会的欲求の下には「自分の時間を持つ」や「誰かと親密になりたい」などと書きます。
承認欲求の下には「教育課程を修了する」、「昇進する」、「山に登る」、「旅行する」などと書きます。
自己実現欲求の下には「他人に貢献する」や「世界をもっと良くする」などと書きます。
それぞれのカテゴリーにできるだけたくさん自分の欲求を書きましょう。

【図2】(日本語版翻訳者作成)

次に、二つ目の欄に、今、そういう欲求がどのくらい満たされているのか、子供がいない人生を送ったらどのくらい満足していられるかを書きます。
三つ目の欄には、子供を持つ選択をしたなら、どのくらい欲求が満たされるのかを書きます。

その後、自分が思いついたことを振り返ってみます。
例えば、子供を持つと決めたら、子育ての最初の数年間は、8時間寝たいという欲求は絶対に脇に追いやられることになります。それでやっていけますか?
支払いを賄うのに十分なお金がないかもしれないあなたは、今の暮らしに子どもが加わる余裕があるでしょうか?
特に子育ての初期には、自分の時間を持ちたいとか、世界中を旅行して観光したいとかいうような欲求は満たしにくくなるでしょう。それでもやっていけますか?
その一方で、子供との関係の中で得られる喜びや楽しみは、こうした代価に勝るかもしれません。
それに、子供を持つことで、別の人生に貢献したいという欲求が他の多くの欲求に勝るかもしれません。

もう一つ、欲求を評価する方法があります(図3)。
一枚の紙の左下に、安全、愛情、所属、友達づきあい、養育、自尊心、達成感、他人からの尊敬など、さまざまな欲求をすべて書き出してみましょう。
あなたにとってどの欲求がいちばん重要でしょうか。重要なものから重要でないものまで、順位をつけましょう。
ここで、欄を二つ作ります。片方の一番上に「子供」と書き、もう片方の一番上に「他のこと」と書きます。各欲求について、どれくらい子供が満たしてくれるのか自分に問いかけてみましょう。例えば、愛情について、子供はあなたを愛してくれ、あなたは子供に愛情を感じるでしょう。
では、別の欄に移って、例えば、人生でパートナー、家族、友人、ペットから愛情を受けたり感じたりできる方法が他にあるかどうか考えましょう。個々の欲求と、子供を持つことや他の方法でそれを満たせるかどうか、考えを出しつくすまで続けます。このワークから何がわかりますか?

【図3】(日本語版翻訳者作成)